明治・大正・昭和の時代小説 観光や映画・ドラマを何倍も楽しめる

時代小説を読むと、当時の人の暮らしぶりや考え方を疑似体験できます。史跡を観光するときや、昔が舞台の映画やドラマを見るときも、歴史の知識があればより楽しめるでしょう。昭和後半生まれにとっても興味深い、明治から昭和前半のおすすめ時代小説を紹介します。
明治時代が舞台のおすすめ小説

1868年から45年続いた明治時代は、変革の時代です。明治維新や日清・日露戦争にかかわる歴史上の有名人が多く、映画やドラマの舞台にもよく採用されます。そんな時代の様子がよく分かる小説を紹介します。
司馬遼太郎「坂の上の雲」
NHKのスペシャルドラマの原作でも知られる作品です。四国松山出身の3人の男性の生き様を通して、日露戦争を中心とした明治の様子が分かります。
日露戦争といえば、旅順攻略戦や日本海海戦が知られています。しかし大将の乃木希典や東郷平八郎を知っていても、坂の上の雲に登場する秋山兄弟のような、その他の将校の存在にまで思いをはせる人は少ないでしょう。
軍人がどのように立身出世するのか、正岡子規のように文学で名を残すとはどういうことなのか、現代に生きる人には分からないことだらけです。
でも「坂の上の雲」全8巻を読み終えれば、きっと腑に落ちるはず。

浅田次郎「一刀斎夢録」
新選組三番隊長、斎藤一(さいとうはじめ)が登場する物語です。
最強の剣士として知られる斎藤一は、明治維新後は警視庁に勤務し、西南戦争にも赴きます。
近衛師団の若い中尉を相手に、新選組の生き残りとして、胸の奥に去来するさまざまな出来事を語る「一刀斎」こと斎藤一。
彼の口調を通して、まさに真剣にて命のやり取りをする場に身を置いた者にしか分からないであろう人生哲学が、平和な現代を生きる私たちにもすんなりと届きます。

河合敦「殿さまは明治をどう生きたのか」
厳密には小説とはいえないかもしれませんが、明治の様相を知るにはうってつけの本です。
「殿さま」とは、江戸時代の藩主のこと。廃藩置県で領地は没収、家臣もいなくなった殿さまって、どうやって暮らしていたのでしょう?
この作品では自ら畑を耕して食いつないだ人や外交官になった人など、14人の元殿さまのたどった運命が紹介されています。
ある意味、明治維新の影響をもっとも受けたといえる元藩主。どうなったのか気になりますね。

大正時代が舞台のおすすめ小説

たった15年で終わった大正時代は、明治や昭和に比べて地味なイメージがあります。しかし「大正デモクラシー」や「大正ロマン」といった言葉が生まれ、第一次世界大戦も勃発しています。短いながらも、激動の時代だったといえるでしょう。
浅田二郎「天切り松 闇語り」
大正時代の義賊を描いた連作です。粋でいなせな登場人物が、大正時代をこのうえなくおしゃれに感じさせてくれます。短編なので、気負いなく読めるでしょう。

乃南アサ「地のはてから」
アイヌ語の「地のはて」を意味する「知床」を舞台にした物語です。主人公は開拓民の少女「とわ」。
とわは両親が福島から移住したため、物心ついたときには知床で暮らしていました。
知床は今でこそ人気の観光地ですが、住むには適さない場所です。内地では豊富に収穫できる農産物も、ほとんど育ちません。せいぜいジャガイモくらい。
そんな土地で、父親の事故死、母親の再婚、そしてアイヌ民族の青年とのはかない恋エトセトラに向き合って懸命に生きる主人公の姿に胸を打たれます。
歴史云々関係なく、一度は読んでほしい作品です。

昭和時代を舞台にしたおすすめ小説

昭和は日本が外国と戦争をした最後の時代です。第二次世界大戦をテーマにした時代小説も、たくさんあります。戦争の悲惨さ・虚しさを感じられる時代小説を見ていきましょう。
百田尚樹「海賊と呼ばれた男」
出光興産の創業者「出光佐三」がモデルのノンフィクションです。戦争で全てを失い借金だけが残った石油会社の社長がとにかく逞しい!
岡田准一さん主演の映画も、感動的でした。

山崎豊子「大地の子」
中国残留孤児の青年「陸一心」が主人公の小説です。陸一心は、満州開拓団の一員・松本家の長男ですが、日本の敗戦によってソ連軍に家族を殺され、生き残った妹とも引き離されてしまいます。
中国人の陸徳志に救われて養子となるも、文化大革命が起こると日本人というだけで散々な目に遭わされます。しかも、やっとの思いで探し当てた妹は、自分よりも悲惨な運命をたどっていました。
「小日本鬼子(しゃおりーべんくいず)」と呼ばれた日本の孤児に、もちろん罪はありません。そう呼びたくなった中国の人にも、罪はありません。
全ては戦争が悪い。改めてそう思わせてくれる作品です。

中島京子「小さいおうち」
昭和の初期、まだ女中奉公が一般的だった時代の物語です。赤い屋根のおしゃれな家の女中として雇われた主人公のタキは、若くてきれいな奥様を慕っていました。
しかし平穏な日々は長続きせず…
いろんな意味で、令和の今こそ読むべき小説です。

明治・大正・昭和の時代に思いをはせよう
200年以上戦のなかった奇跡の江戸時代から一転、明治以降は否応なく戦争に突き進んだ時代といえます。
しかし軍人だろうが民間人だろうが、簡単に命を落としてしまう世の中でも希望を失わず、懸命に生きた人もたくさんいたことは事実です。
時代小説を通して、平和への思いを改めて強く持っていただけると幸いです。